監基報701が求めるKAMの決定プロセス

KAMの識別基準

監基報701.9は、監査人にKAMの識別を2段階で求めている。第1段階では、当期の財務諸表の監査において監査人が最も注意を払った事項を特定する。第2段階では、これらの事項のうち、統治責任者と協議した事項からKAMを選択する。

統治責任者との協議事項には、虚偽表示リスクが高い事項、監査人の判断を伴う財務諸表上の領域、当期中に発生した事象や取引が含まれる。ただし、すべての協議事項がKAMになるわけではない。ここが判断の分かれ目。

記載の構成要素

監基報701.13は、各KAMについて以下を監査報告書に記載するよう求めている。

事項の概要は、当該事項がKAMである理由を含む記載。単なる会計方針の説明ではなく、なぜその事項に監査人が注意を払ったかを明確にする。ここで会計方針をコピーしただけの調書が最もレビューノートを生む。

監査上の対応は、当該事項に対して監査人が実施した監査手続の記載。検証した仮定、実施したテストの種類、利用した専門家について記載する。「十分かつ適切な監査証拠を入手した」とだけ書いても品管は通さない。

財務諸表における取扱いは、関連する注記や会計方針への参照。読者が財務諸表でどの部分を確認すればよいかを明示する。

実務での適用例:架空の商社でのKAM記載

田中商事株式会社(売上高2,400億円、総合商社)の2024年3月期監査を想定する。

統治責任者との協議では、資源事業への投資評価、長期工事契約の収益認識、関連会社投資の減損テスト、デリバティブ取引の時価評価について議論が行われた。これら4項目のうち、資源事業への投資評価と長期工事契約の収益認識をKAMとして選定する。

統治責任者との協議事項を整理するところから始まる。監査ファイルに協議議事録を綴じ、各事項について「注意を払った程度」を1-5のスケールで評価する。

次に、最も注意を払った事項を特定する。評価スケール4以上の事項を抽出し、監査時間の配分、実施した手続の複雑さ、利用した専門家の有無で優先順位を決定。

KAMの記載内容を作成する段階では、各KAMについて「なぜKAMか」「何をしたか」「財務諸表のどこに記載されているか」を200-300語で記載する。SALYで前年の文面をそのまま使い回すチームもいるが、前年と同じ文面で品管を通るかは保証されない。

最後にパートナー及び品管レビュー担当者の承認を得る。記載内容が被監査会社の機密情報を保護しているかを確認し、監基報701.14の制約要件との整合性を検証する。

KAM記載の実務チェックリスト

1. 統治責任者との協議議事録を作成し、協議した全事項を文書化する 2. 監基報701.9の識別基準に基づき、最も注意を払った事項を特定する 3. 選定した各KAMについて、構成要素(概要、監査上の対応、財務諸表における取扱い)を記載する 4. 監基報701.14の制約要件を確認し、被監査会社の機密情報を保護する 5. KAMの記載が監査意見の根拠ではなく、個別の監査意見を表明するものでもないことを確認する 6. パートナー及び品管レビュー担当者による記載内容の承認を得る

よくある記載不備

事項の概要が単なる会計方針の説明になっているケースは多い。監査人がなぜその事項に注意を払ったかが不明確なまま提出される。リスクの性質や判断の困難さを明記しなければ、品管で差し戻しになる。

監査上の対応が抽象的すぎるケースも目立つ。「十分かつ適切な監査証拠を入手した」といった一般論ではなく、実施したテストや検証した仮定を書く。経験上、ここを具体的に書けるかどうかが、調書の質を分ける。

財務諸表の参照先が不正確な場合もある。関連する注記番号や会計方針の条項を正確に記載し、読者が該当箇所を特定できるようにする。注記番号の転記ミスは繁忙期に頻発する。

関連リソース

- 監査報告書の文例集: KAMを含む監査報告書の標準文例 - 統治責任者との協議議事録テンプレート: KAM識別に必要な協議内容の記録様式 - 監基報701完全ガイド: KAMに関する基準要求事項の詳細解説

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