Definition

金融庁の2024年度モニタリングでは、継続企業の評価に関する指摘が対象業務の約22%で記載されました。最も多い指摘は、経営者の対応策を先に見てしまい、リスク要因の洗い出しが後付けになるパターン。経験上、調書を開いた瞬間に「結論ありき」だとわかるものは少なくありません。

実務上の要点

- CDPが成り立つかどうかは、経営者が決定します。監査人は経営者の判断を評価し、調書に文書化する立場。 - リスク要因(財務指標の悪化、借入金返済の遅延など)が表面化していない場合でも、積極的な確認作業が必須です。「問題なさそう」で終わらせる調書は品管で差し戻される対象になります。 - ISA 570(改訂2024)は評価の順序を変えました。期末時点での疑義事象を全てグロスベースで洗い出してから、経営者の対応策を評価する。この2段階が分離されていない調書は、改訂基準では通りません。

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ISA 570が求める評価の構造

CDPは会計報告の根底にある前提です。ISA 570.1は監査人に対し、この前提が成立しているか、かつ経営者がこれを合理的に評価しているかを判断するよう求めています。

現行のISA 570では、疑義事象と経営者の対応策を一体で評価するチームが多い状況です。ただし改訂基準(2026年12月施行予定)では手順が明確に2段階へ分離されます。ISA 570(改訂2024).A2はまず全ての潜在的なリスク要因をグロスベースで特定するよう求め、その後に経営者が講じた対応策がリスクを軽減するかどうかを評価する。正直、対応策を先に知っていると「まあ大丈夫だろう」という結論に引っ張られるんですよね。この順序の厳格化は、まさにその認知バイアスを断ち切るための設計変更です。

評価対象となるリスク要因はISA 570(改訂2024).A2に列挙されています。流動比率、営業キャッシュフロー、借入金返済スケジュール、赤字の累積状況、市場シェアの喪失、経営陣の入れ替わり。数値の悪化だけでなく、定性的な兆候(訴訟中の案件、許認可の失効など)も対象となります。監査人がこれらを「評価」するとは、単に数字を眺めることではありません。各リスク要因について経営者がどう判断し、その判断根拠が何か(内部文書、外部見積もり、財務計画など)を確認すること。数字の裏にある経営者の思考回路まで調書に落とし込む作業です。

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実践例: Müller Maschinenbau GmbH

ドイツの中堅機械部品製造業。2024年度末決算。売上EUR28M、営業利益率2.3%、流動比率1.1倍。

リスク要因の洗い出し(ISA 570(改訂2024).A2)で、以下の4項目を特定しました。 - 営業利益率が低い(業界平均4.5%) - 流動比率が低めである(業界平均1.5倍) - 主要顧客(売上の35%)が来期の発注を15%削減する予定 - 既存の長期借入金EUR12Mの返済期限が2026年

文書化上の注記: 調書には以下を記載します。(1)各リスク要因を特定した時期と根拠(何月の経営会議記録を確認したか、どの外部データを使ったか)。(2)経営者による判断書または経営陣の会議記録で、当該リスク要因が議題に上がったか否か。上がっていなければ、経営者がリスク要因に気付いていないこと自体が記録対象になります。

経営者の対応策の評価では、以下が提示されました。 - 製品Cシリーズ(利益率8%)への生産シフト。2025年上期に粗利益率を0.8%向上させる見込み - 新規顧客(自動車部品メーカー)の獲得。2025年度からEUR3M相当の受注見込み - 既存借入金の借り換え。銀行から2026年返済をEUR12M分2028年に繰り延べる承認を取得 - 人員削減による固定費圧縮。2025年Q1に管理部門5名の自然減を計画

文書化上の注記: 調書には以下を記載します。(1)対応策が講じられたのか、あるいは計画段階なのか。新規顧客に関しては、確定受注か見込みかで調書の記載が変わります。受注契約書の写しを添付。(2)対応策により、当初特定したリスク要因がどの程度軽減されるか。製品Cシリーズへのシフトで粗利益率が0.8%上昇すれば、営業利益率は2.3%から3.1%になる。それでも業界平均の4.5%には届かない。経営者は追加でどう動くのか。(3)銀行の借り換え承認書は日付、署名、条件を含んでいるか。

経営者の対応策は部分的に裏付けがあります(借り換え承認書は確定、製品シフトは開始済み)。ただし新規顧客のEUR3M見込みは2025年度の実績待ち。継続企業の前提に対する重大な不確実性が残ります。ISA 570(改訂2024).16は、この不確実性を財務諸表の注記で開示するよう求めています。経営者の注記案をレビューし、確認した項目は不確実性の性質、経営者の対応策、これらが解決しない場合の帰結、監査人は事業の存続を保証しないという免責事項の4点。監査意見には「継続企業に関する重大な不確実性の存在」について追加パラグラフを含めます。

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監査人と検査官がよく見落とすこと

金融庁の2024年度モニタリング対象業務では、CDP評価に関連する指摘が約22%の案件で記載されています。最も目立つ指摘は、評価の順序が不明確な調書。経営者が提示した対応策をまず確認してから、その対応策により何が改善されるかを後付けで判断するパターンです。ISA 570(改訂2024)では、この順序を逆にしなければなりません。リスク要因をまず客観的に洗い出し、その後に対応策を評価する。

ISA 570(改訂2024).A2の「リスク要因リスト」を形式的にこなすだけの調書も散見されます。流動比率の計算はしたが、業界平均や当該企業の過去水準との比較がない。赤字決算が続く企業でも「経営者がCDPを前提として財務諸表を作成している」という事実だけで評価を完了させている。ISA 570(改訂2024).13は、経営者の判断が合理的(reasonable)かどうかを監査人が評価するよう求めています。合理性とは、客観的な証拠に支えられているか、他に合理的な判断がないか、経営者の見立てと業界見通しに乖離がないかを検討すること。ここをSALYで済ませると、審査で突き返されます。

調書に「継続企業について懸念がない」と結論だけ書いて、根拠が明示されないケースもあります。「現金流入の見通しは良好」と記載されているが、何に基づく見通しか(経営者の見積もりか、銀行融資の内定か、外部調査か)が不明。ISA 570(改訂2024).15は、監査人の評価根拠を完全に文書化するよう求めています。

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ISA 570とISA 570(改訂2024)の相違点

両基準の最大の違いは、評価手順の分離です。改訂基準はリスク要因の特定と対応策の評価を2段階に分け、経営者が講じた対応策の裏付けをより詳細に検証する構造になっています。現行基準のように一体評価を行うと、対応策がリスク認識にフィルターをかけてしまう。改訂基準はこの問題を構造で解決しようとしています。

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関連用語

- ISA 570(改訂2024): 継続企業の前提に関する改訂版監査基準。2026年12月施行予定。 - 後発事象: 期末日後に生じ、CDPに影響を与える可能性のある事象。ISA 560で規定。 - 経営者の見積もり: CDP評価において、経営者が用いた将来の現金流入見積もりなど。ISA 540で規定。 - 不確実性の開示: CDPに関する重大な不確実性を財務諸表で開示する要件。ISA 570.16で規定。 - キャッシュフロー分析: CDP評価で用いられる手続。ISA 570.A2で言及。

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関連ツール

継続企業チェックリスト(ISA 570改訂版対応)は、リスク要因の洗い出しから経営者の対応策の評価、不確実性の開示確認までを段階的に実行する構成です。繁忙期に手順の漏れを防ぐにはこの種のツールが頼りになります。

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