この記事で学べること

- BVの法定監査義務の判定を正確に行い、連続要件を適用する方法 - 商法第397条の3つの閾値と2年連続ルールの具体的な適用手順 - 監査義務の免除申請(opt-out)の条件と手続き - 中規模BVから大規模BVへの移行時期の判定

法定監査義務の基本的枠組み

オランダ商法第2編397条の構造

オランダでは、BV(besloten vennootschap)の法定監査要件は商法第2編で規定されている。基準となるのは企業の規模である。小規模、中規模、大規模、加えて零細の4区分があり、大規模企業は法定監査が必須となる。中規模企業は条件付きで義務を負う。

判定に使う3つの閾値は以下のとおり: 1. 売上高:4,000万ユーロ 2. 総資産:2,000万ユーロ 3. 従業員数:250名(フルタイム換算)

3つのうち2つを満たせば中規模企業に該当する。2年連続で満たせば法定監査の義務対象。経験上、この「2年連続」要件を見落とすBVは少なくない。

なぜこの要件が存在するか

法定監査義務の目的は投資家と債権者の保護にある。規模が一定以上の企業は社会的影響が大きく、財務情報の信頼性確保が公益上求められるためだ。2年連続要件は、一時的な業績変動で監査義務が頻繁に変わることを防ぐ仕組みである。企業にとって監査コストの予測可能性を高める効果もある。

実際の判定手順

3つの閾値の計算

各財務年度末時点で3つの指標を確認する。売上高は年間総収益から付加価値税を除いた金額。総資産は貸借対照表の資産合計である。従業員数はフルタイム換算で計算し、パートタイム従業員は労働時間の比例で算入する。

2つ以上の閾値超過の確認

当年度に3つのうち2つ以上を超過しているかチェックする。超過していなければ監査義務なし。2つ以上を超過していれば次のステップへ進む。

前年度との比較

前年度も同様に2つ以上の閾値を超過していたかを確認する。前年度も超過していれば、当年度から法定監査義務が発生。前年度は超過していなければ、来年度に再度判定を行う。

特例:新設BVの取扱い

設立初年度のBVには2年連続要件は適用されない。設立年度に2つの閾値を超過すれば、翌年度から監査義務が発生する。

実例による適用

サカモト物流株式会社のケース

横浜市に本社を置く物流会社で、設立から8年。主に製造業向けの倉庫・配送サービスを展開している。

2023年度実績: - 売上高:43.2億円(約3,240万ユーロ) - 総資産:28.5億円(約2,140万ユーロ) - 従業員数:285名(フルタイム換算)

2024年度実績: - 売上高:51.8億円(約3,890万ユーロ) - 総資産:32.1億円(約2,410万ユーロ) - 従業員数:312名(フルタイム換算)

判定プロセス:

2023年度判定: - 売上高4,000万ユーロ基準:未達(3,240万ユーロ) - 総資産2,000万ユーロ基準:超過(2,140万ユーロ) - 従業員250名基準:超過(285名) - 結果:2つの基準を満たすため中規模企業に該当

2024年度判定: - 売上高4,000万ユーロ基準:未達(3,890万ユーロ) - 総資産2,000万ユーロ基準:超過(2,410万ユーロ) - 従業員250名基準:超過(312名) - 結果:2つの基準を満たし、前年度も2つの基準を満たしていたため、2024年度決算に対して法定監査が義務

財務諸表への記載として、取締役会報告書に「当社は商法第397条に基づき法定監査の対象である」旨を明記する。監査人選任については、2024年12月までに株主総会で選任し、遅くとも2025年3月の決算前に監査契約を締結する流れになる。

サカモト物流は2024年度決算から法定監査が必要である。2年連続で閾値を満たしたため、次年度以降も継続的に監査義務を負う可能性が高い。

実務チェックリスト

1. 財務年度末の数値確認として、売上高、総資産、従業員数を正確に算出し、3つの閾値(4,000万ユーロ、2,000万ユーロ、250名)と比較する 2. 前年度との連続性確認も忘れずに行う。当年度だけでなく前年度も2つ以上の閾値を超過していたかを検証する 3. 従業員数の計算にはパートタイム従業員をフルタイム換算で算入し、年度末時点の人数で判定する 4. 法定監査義務が確定した場合、株主総会で監査人を選任し、決算前に監査契約を締結する 5. 毎年度末に3つの閾値を確認し、監査義務の継続または免除を判定する 6. 最も見落としやすいのが2年連続要件。当年度に閾値を超過しても、前年度に超過していなければ監査義務は発生しない

監査義務の免除(Opt-out)制度

免除の条件

中規模BVは一定条件下で監査義務を免除できる。株主全員の同意が必要で、かつ従業員委員会(設置されている場合)の承認も求められる。本音を言うと、この免除申請は毎年度やり直す必要があり、自動更新されない点を見落とすケースが少なくない。繁忙期にこの手続きを忘れて、翌年度にクライアントから指摘されるのは避けたい。

免除できないケース

以下の場合は免除申請ができない: - 上場企業またはその子会社 - 金融機関(銀行、保険会社等) - 公益事業体 - 従業員委員会が免除に反対した場合

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